春、春分のころ⑦・・・それでもだめなときに(2)
市内の高校すべてを回って、
あらかじめ生徒から聞いていた受験番号を確かめに行くというものでした。
彼女の高校は2番目・・・
当時朝の10:00から掲示板が運ばれ発表でした。
ご経験者の方はおわかりでしょうが、
その時の緊張感と、合否それぞれの明暗は
言葉に尽くしがたいものがあります。
合格した者の爆発したような歓喜と躍動・・・
その人込みに中、ポツンポツンと不合格者の姿がまぎれている・・・
最近わたしは思うのですが、
受験の風景としてこれほど残酷なものはないでしょう・・・
そろそろこういうやりかたはやめて
単に郵送でいいのではとも思います。
受験の風物詩などとのんびり言えるのは
それをネタにしたいマスコミ関係者か
合格者の言い分だからです。
勝てば官軍・・・
弱肉強食・・・
現に私立は郵送なのですから、
こういうやり方が本当にいい方法なのか
関係者は考える時期に来ていると思います。
この方法を取ることで
かれらの何かが育つのか・・・
もちろん、その逆境をばねに高校で奮起するものもいるでしょう・・・
それでも、大きな優越感と有頂天・・・
そして、どん底の挫折感と絶望・・・
この対極をわざわざ人前で見せることに意味があるとは思えません。
さて、話を戻しましょう・・・
一番目の高校の合否を確認して
彼女の高校へ到着したのは10:30を過ぎていたでしょうか・・・
名簿を手に握りしめ、
掲示板の方へ小走りに向かいます。
そこに・・・
なんと・・・
彼女がポツンと佇んでいるではありませんか!
合格発表からすでに30分以上もたって
もう人込みはどこにもありません。
歓喜の中、合格者は、校舎の中へ
不合格者は、自らの存在を消すように
重く立ち去っていくしかありません。
それほどのつらい状況の中
彼女は掲示板の前でずっと待っていてくれたのです。
「先生、ダメでした・・・」
私を待っている間、すでに泣き明かした彼女の眼は
真っ赤にうるんでいました・・・
なんと・・・
「待っとってくれたん・・・」
私はやっとのことで言葉にできました。
「先生には伝えなきゃって・・・」
思わず抱きしめました・・・
つらかったのにごめんな・・・
ありがとう・・・
なんという子でしょう・・・
自分が一番つらいのに、
そんなところで待っているのは
本当にさぞつらかったでしょうに・・・
それでも彼女は大切な何かを守るように
ぐっとかみしめるように待っていたのです。
大切な何か・・・
それは、信頼を成就すること・・・
自分が続けた信念にきちんと終わりの石を置くこと・・・
彼女は、とてつもなくつらいその空間で
二の足でしっかりと立って
その大切なことをやり遂げていたのです。
圧巻でした・・・
そんな彼女も、今は二児の母・・・
私のカフェにも幾度となく訪れてくれていました。
今は少し遠方で暮らしていますが、
年賀状で笑顔を送ってくれています。
彼女の子供たちが受験を迎えた時
彼女の存在が伝えられることは
とても奥の深い、慈悲に満ち溢れたものになるに違いありません。
連綿と続く「いのち」に
順送りの役割があるとすれば
それはこういうことを言うのではないかと思うのです。
いつまでも彼女とご家族の幸せを祈りたいです・・・
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体
