秋、寒露のころ⑧・・・入口まで連れていくだけ
子どもをある世界の入り口まで連れていくだけ・・・
と思っている。
それ以上は、わたしの出る幕ではない。
こういう哲学になったのは、
私のある体験からだ・・・
わたしは、教採に落ちたため
臨時採用を2年続けた・・・
二年目はとある私立の教員・・・
その私立には、わたしの高校の部活の顧問の紹介で一年契約で採用された。
一年頑張れば、正採用という条件も付いた。
だが、そこはわたしにとっては地獄の教育方針だった。
男女交際禁止・・・
異常なほど厳しい月一回の頭髪検査・・・
朝あいさつをしなかった生徒にホースで水を浴びせる副校長(理事長の息子)・・・
その副校長をたしなめた先生が翌日からいなくなった。
赴任一か月で私が学校を辞めたかった。
理不尽すぎる校則を子どもに強要しなければならない教師としての私・・・
ただ、担任をまかされていたので途中で投げ出すことはしたくなかった・・・
また、一年間、子どもとのやり取りは本当に勉強になったし、楽しかった。
当時、いわゆる偏差値がとても低い私立高校の生徒の家庭や生活は
実に複雑な場合があって、現在の「経済と教育」の問題が
子どもたちの心にまで深く影響をしていた・・・
50人いた担当の生徒たちは、50人50人色・・・
毎日かわす日記(学校指定)には、日々いろいろな悩みや怒り、悲しみが綴られていた。
まだ若く、のほほんと生きてきた私に
一年間、一人一人の日記に「赤を走らせ」続けたことは、
世間知らずだったわたしにとってはかけがえのない経験だった。
それでも、進退を決める時期にきても
当初のやめるという決心は変わらず
学校側に辞めると伝えようとしていた・・・
そして、紹介してくださったあの顧問の先生に
とりあえず事情と自分の心の説明を電話でしてみた。
本来は、お会いして・・・と思ったが
ある事情があり、とりあえず電話で・・・とお話をした。
その時だ・・・
一通り話そうとする私の耳に
信じられない言葉が罵声とともに届いた。
「オレの顔に泥を塗るのか!」
思わず受話器を耳から離した。
それほどの怒号だった。
私はびっくりすると同時に
すぐさま心は冷めていった・・・
(なんだこの先生・・・)
私の正直な心の声だった・・・
実は、校則のことは、もちろん大きかったが、それと同じくらい、
「この先生に一生頭が上がらない選択はしたくない・・・」
それもやめる大きな理由だった。
高校で弱小チームを
県内ベスト16か8にまでしてくださったことには感謝していたが、
私の感謝はそこまでだったし、それだけだ。
私はこの先生をどうしても人間的に尊敬できなかった。
(やはりこう出たか・・・)
そんな言葉さえよぎった。
世の中の部活の顧問には2通りある。
生徒が主役、生徒の成長と活躍が何よりもうれしく楽しい・・・という人と、
自分の名誉や地位を守るために試合をしている人と・・・
また、はじめは前者でも、
月日を経るうちに余分な荷物を背負い込んで後者になる人もいる・・・
そのいずれかによって生徒にかける言葉は全く違う。
そういうことは生徒が一番敏感に気が付いている。
高校の顧問は、わたしから見てまぎれもなく後者に映っていた。
それがこの電話で表面に出ただけだ・・・
(わたしはあなたの道具ではない)
どう電話を切ったか覚えていないが
私の意を貫かせていただいたことだけは覚えている。
生徒は先生の道具ではない・・・
ましてや所有物でもない・・・
大きさは全く違うが
昨今のスポーツの問題は、
まさにこういう所から出ている。
一人の人間として人生の岐路に立ち
真剣に悩み結論を出そうとしている・・・
その足元を見て
おのれの名誉欲や自己顕示欲を満たすために
これからの若者を縛るのは言語道断!
このいやな経験から私が気づいた哲学・・・
子どもが岐路に立つとき・・・わたしができることは、ともに考え寄り添う。
その子のいのちが一番輝く場所の入り口まで連れて行ってあげるだけだ・・・
あとは
「グットラック」と
「よかったら、いつでも遊びにおいで」だけである・・・
昨日は、ご縁があってとある高校の部活見学に行った。
オープンキャンパスでは雨天で、お目当ての部活が見れなかったのだ。
お母さんは自営をされてお忙しいので
生徒との会話の流れで付き添うことにした。
そこの高校はとてもご親切にしていただき
思いがけず、練習にも参加できた。
ここまでくればあとは本人が決めること・・・
私は、見守る側に回り、その生徒が答えを出すまで待つだけである。
あれから何十年もたつが、
先日あげた樹木希林さんの手紙がわたしの目指す教師像・・・
今年も受験の時期がやってきます・・・
それぞれの性質によく耳をかたむけ聞いて
その子が一番輝く場所を共に探す。
教育って教えるだけでなく、
寄り添い共に育つことかもしれない。
それが面白くなったら、
ああ、教師になって幸せーっっっョ。
樹木希林
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体
