夏、夏至のころ⑤・・・三の風
その朝、わたしは髪を切りに
ある駐車場を歩いていた。
いつものハンチング帽をかぶっていた。
めったにハンチング帽が風で飛ばされることはない。
それに、多少の風はあったが、
特別、風が強い日でもなかった。
何を考えて歩いていたか
まったくおぼえていないから
たぶんぼーっと歩いていたと思う。
ふいに突風が吹き
ハンチングのつばをかすめた。
手で押さえる暇はなかった。
一瞬・・・
あっという間に5メートルほどとばされた。
「めずらしいこともあるもんだな」
その時は何気にそう思っただけだった。
が、夕方、父が亡くなったと知らせが来た。
あとからだが
亡くなった時間を知って驚いた。
ちょうど、あのハンチング帽がとばされた時
父がこん睡状態に入り
魂が肉体を離れようとしていたころだった。
父が来ていたんだ。
日頃、人さまのサインは気が付くのに
自分のことになるとすこし鈍くなる。
なかなかうまくいかないものだ(苦笑)
父は腕のいい背広の職人だったが
本当によく趣味に遊んだ人だった。
鳥
花
歴史
バイク
野球
チャップリン
噺(はなし)
・・・
みんな父に教えてもらった。
父がなくなって後、
背広の襟首につけるタグをもらってきた。

古びたその箱の中には
茶色になった新聞の切り抜きが入っていた。

その色から相当昔、父が切り抜いたものだと察しが付く。
父は洋ランのための温室を自分で作っていた。
おそらくその時のものだろう・・・
父 愛用の鳥の図鑑も譲り受けた・・・
鳥にしても歴史にしても
父はよく調べていた。
知識があったほうが遊びも数倍楽しい。
父のまめさが現れる図鑑だ。

子どもは親を選んで生まれてくるというが
もし選んだとしたら
父から人生を遊ぶことを教えてもらいに来たんだと思う。
仕事も大事だが
遊ぶこと、工夫して遊ぶこと、
そして、まじめに遊ぶこと・・・
そういうことを教えてもらったと思う。
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体

はじめまして・・・
はじめまして
私の心を引き留めるワードがいっぱで
美しい文章に引き寄せられました(笑)
また、訪問させて頂きます。