夏、立夏のころ⑬・・・ほどける
3年生が引退をする頃には、
人と・・・ソフトボールと・・・
もう一度向き合ってみようという気持ちになっていた。」
が・・・
(少々、青臭いドラマでこっぱずかしいのですが
どうぞお付き合いください)
中学校のあの経験から
どうしても固辞しつづけたいものがあった・・・
それは、「キャプテン」だった。
高2の夏、先輩たちが引退した後・・・
キャプテンを選ぶ時期が来た。
皆は、わたしを指名してきた。
どうしてもやりたくなかった。
一年たって、人とソフトボールには真正面から向かえるようになった。
でもどうしてもチームの責任を負う「キャプテン」にはなりたくなかった。
何日か、何時間後か?記憶が定かではないが、
固辞し続けたある日、
一人のチームメイトが言った。
そのチームメイトは、別の中学出身だったが
中学の時の私の事情を知っていた。
わたしは、高校がある大きな街の出身ではなく、
その隣の ちいさなちいさな町出身だったので、
ときどき、街の子独特の
ある意味擦れた勢いに押されることがあった。
そのチームメイトも 街の子らしい、どこかてきぱきとした強引さがあった。
しかし、けっして嫌味でなく・・・
どこか私の足りない心のかけらを埋めてくれるような存在だった。
入部以来、すでに親友と言ってもいいほど心が打ちとけていた。
その親友が、じれったがるように すこしだけきつい口調で言った。
「なんでやらんのぉ?
中学の時と同じになるとは限らんでしょう↗
みんな、むさしにしてほしいって言っとるんだがぁ!」
(尾張弁のイントネーションで)
むさしとは、わたしの部活の時のあだ名だ。
「かんべむさし」という作家がいるというので
監督が勝手につけた名だ。
どうやら今も生きていらっしゃる作家さんのようだ。
まあ、大変失礼な話だが
現在でもわたしは一冊も読んでいない。

心の中でなにかがパチンと音を立てた。
やってほしいというみんなの希望・・・
けっして、「誰もやりたがらないから」という
マイナスの押し付けではないことが
彼女の言葉から読み取れた。
あの一言が本当に響いた。
そして、その言葉でどこか救われる自分がいた。
はじまってもいないのに、やってもいないのに
暗いトンネルの中で 勝手にいじけている自分を彼女は叱ったのだ。
あっけらかーんとした言葉が、ど真ん中ストレートで届いた。
みんなの期待に、ただ素直に応えればいい・・・
ただ、やればいい・・・
何を怖がっていたんだ・・・
本当にすとーんという感じだった・・・。
中学の時のような孤独感はない・・・
一年半の練習や合宿で文字通り
何度も同じ釜の飯を食ってきたチームメイトだった。
そんな濃い時を過ごした彼女たちに猜疑心を挟む余地などなかった。
お互いの間に、すでにそういう安心感が育っていたのだと思う。
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体
