夏、立夏のころ⑧・・・ちゃんと負ける
ベンチから檄(ゲキ)がとんだ。
わたしは目を疑った。
それは、味方のベンチからではなく、
戦っている相手チームのベンチからだった。
檄をとばした主は、あのお寺のお坊さん先生のY先生。
中2になっていた私は、ピッチャーだった。
大量リードしていてもう勝てるというとき、
味方のエラーが連鎖していた。
あれよあれよと相手に点が入る・・・
記憶が定かではないが、
追いつかれたか、逆転されたかのどちらかだった。
なぜY先生が相手チームにいるか・・・
それは、中1を最後に転勤され
別の中学校に行かれていたからだ。
普通、相手チームのピッチャーに、
しかも、自分のチームが優勢になってきている試合中に、
元生徒とはいえ、なかなか叱咤激励をできるものではない。
今思えば、その先生は勝ち負けよりも、そのスポーツを通して、
その子の心の成長を第一に考えていた証拠だ。
恩師の先生に自分の成長を見てもらえる・・・
先生のチームに勝ってそれを証明できる・・・
そう意気込んでいた私は、
味方のエラーの連鎖に相当イラついていた。
いつしかその腹立たしさから、プレートを蹴り上げていた。
その瞬間、とんだ檄だった。
先生の・・・
あまりにも鮮やかすぎる・・・
ど真ん中ストレートのその檄に
「はいっ!」
と反射的に答えていた自分がいた。
目が覚める瞬間だった。
いま、私は立場が逆となり
あの頃の自分のような生徒に出会うときがある。
そんな生徒に言う。
「君は、みんなで100M走をしていて
横に自分より速い子がいて、
どんどん差がつけられてるとき・・・
・・・あぁ負けるなとわかった時、
途中で走ることをやめるか?」
あの時のあの先生の言葉は、
たとえどんな理由にせよ
自分が不利な状況になったとき
けっして腐らない心を育ててくれた。
人は負けるとわかった時に
自分の一番よわく汚い心が出てくる。
人生、勝つことより、負けることのほうが圧倒的に多い。
あの日私は
「ちゃんとした負け方」を教えてもらったのだ。
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体
