春、春分のころ②・・・職業の奥で語るもの
特に彼のファンということはないが
同じ愛知出身だというだけで親近感があった。
ただ、よく耳に入った彼の言動は、
どんな時も尊敬の念を持った。
事実かどうかは確かめたことはないが、
それが事実であってもなくても
私にとってはどうでもよかった。
野球人としてこうあってほしいという要素を
彼は静かにあふれるほど持っていた。
折しも時代的に、アメリカの選手のように
口をくちゃくちゃさせながらバッターボックスに立つ日本人選手が出始め
嫌悪感を感じていた時分だったからだ。
たとえば、プロになって偉くなっても
自分の道具を自分で磨く習慣や
ヒットやホームランを打っても
ポーンとバットを放らないところ・・・
哲学者にも値する彼の言葉やトレーニング方法・・・
「バットの木は 自然が何十年も掛けて育てています。僕のバットはこの自然の木から手作りで作られています。グローブも手作りの製品です。一度バットを投げた時、 非常に嫌な気持ちになりました。自然を大切にし、 作ってくれた人の気持ちを考えて 僕はバットを投げることも地面に叩きつけることもしません。プロとして道具を大事に扱うのは当然のことです」
そういったところが
鉄人イチローでなく
哲人イチローだ。
大型化、筋力化するスポーツ界で
決してその流れに流されず、
投走打、すべてに秀でるためのからだとは何かを
研究し、体現して見せた。
鎧のような硬く大きな筋肉ではなく
しなやかな強い筋肉を追求し続けた。
初動負荷トレーニング・・・
常に「人に笑われてきた悔しい歴史」が僕の中にはあるので。
イチローはインタビューでこう述べている。
このトレーニングも当初かなり笑われたらしい・・・
従来のトレーニングと全く違うからだ。
しかし、彼は誰よりも早く怪我を治したり
長くしなやかに現役を続けることで
その妥当性を立証した。
笑われても「こうだ!」と思ったことは貫く・・・
簡単な言葉だが、人はなかなかこれができない。
「ここからは僕にしかわからない進化」
詳しい言葉は忘れたが、
イチローがそんな風なことを言った時がある。
人からは見えない変化、進化・・・
イチローは、目に見える数字が目標でないとも言っていた。
つまり彼は、野球とその奥にあるもの・・・
それこそ価値があるといっていたのだろう。
イチローの職業は「プロ野球選手」・・・
しかし、その奥にある言動は
どんな職業にも通じる「奥行」がある。
幸田露伴は言う。
井を掘る能く深ければ、水を得ざること無く・・・
イチローは、
まさに「野球」という井戸を深く深く掘り
万海にいたったのであろう・・・
これからも彼の言動が楽しみだ。
theme : 気付き・・・そして学び
genre : 心と身体